BS1スペシャル「山中伸弥が聞く 新型コロナ 〜3人の科学者+1人の医師との対話〜」①
- AKIKO SAKAI
- 2020年6月23日
- 読了時間: 7分
更新日:2020年6月25日
疑問や興味を持っていたことが専門家の口から語られるのを聞いて、非常に納得できる番組でした。
1時間の会話をすべて文字に起こしたので、記録も兼ねて何回かに分けて載せます。(ちょっと長いです)
1回目の注目点は
① 慢性炎症が起こっている疾患を持っている人は重症化しやすい
② 自然免疫がしっかりしていれば獲得免疫を動かさなくてもウイルスを撃退する
③ 自然免疫がしっかりしている人は獲得免疫も動きやすい
つまり、自然免疫を強くしておくことがとても大事!ってことです。
ブログ記事「免疫とは?と聞かれて」もどうぞ😉
出演(前半)
山中伸弥 京都大学iPS細胞研究所 所長・教授
宮坂昌之 大阪大学名誉教授 免疫学の第一人者
大曲貴夫 国際医療研究センター病院 国際感染症センター長 感染症専門医
山中先生:最初に、実際患者さんを診療されている大曲先生にお伺いしたいんですが、多くの人は重症化しない、でも、やはり一部の人は重症化する。軽症と思われていた方が突然重症化して、朝元気だったのに夕方、極端な場合は亡くなってしまうという例もあると伺っています。急に重症化して亡くなる方は、肺炎の症状が急速に悪化して呼吸不全で亡くなる方が多いのか、それともいわゆる多臓器不全のように肺だけではなくて心臓など一気に悪くなって亡くなる方が多いのか。どちらのパターンが多いんでしょうか?
大曲先生:私たちが診ている範囲で感じた重症の方は、やはり肺炎の症状、所見が前面に出ていたように思います。そういう方々の経過を診ていくと人によっては多臓器不全が出てくる。肺炎が強烈になって腎臓や肝臓のデータが狂ってきて細胞が厳しく傷んでいるのではないかと思われるような事例があります。
山中先生:多臓器不全という急速な重篤化には、免疫の暴走、サイトカインストームがからんでいるんじゃないかと伺います。宮坂先生、「サイトカインストーム」について教えていただいてよろしいでしょうか?
宮坂先生:「サイトカインストーム」というのは、まず免疫細胞がお互いにシグナルを伝え合う、連絡をし合うために作られるサイトカインが急激に大量に作られ、嵐のように吹きまくる。そのためにさまざまな細胞が傷ついて死ぬ。そういう状態のことをサイトカインストームといいます。
ナレーション:新型コロナウイルスは、なぜ肺だけでなく全身に症状を引き起こすのか。いくつかの原因が明らかになり始めました。その一つがサイトカインストーム(免疫の暴走)。本来、免疫細胞がウイルスと闘うとき「炎症性サイトカイン」という伝達物質を出して仲間の免疫細胞を活性化します。しかし、新型コロナウイルスへの感染でこのサイトカインが異常に増えて免疫細胞が過剰に活性化、なんと血管などを攻撃し始めます。体を守るはずの仕組みが逆に体を傷つけてしまうのです。
宮坂先生:もう一つは、新型コロナウイルス感染症は持病を持っていると重症化しやすい。どういう持病が悪いかというと、冠動脈疾患、閉塞性肺疾患、動脈硬化、糖尿病、これはいわゆる炎症の立場からいくと、いずれもが慢性炎症が一緒に起こっている疾患。動脈硬化だと動脈壁に炎症、糖尿病だとすい臓に炎症。もともとそういう炎症細胞がいるところに炎症性サイトカインがいく。炎症細胞を元気づける物質ですので、初めはボヤで済んでいたものが、だんだん火が大きくなり火事のように全身で火の手が上がってしまう、ということがあるのかなと思っています。
ナレーション:でも、持病がなくても重症化する人はいます。重症になる人とならない人、何が運命を分けるのでしょうか。
山中先生:無症状、軽症、中等症、重症、何がこの違いをもたらしているのか。これがわかったら、かなり対応の仕方も変わっていくように思うんですけれども。大曲先生、実際に診療されていて、何か重症化する人としない人の違いというのは何か感じられるものはありますでしょうか?
大曲先生:これはもう印象になりますので、大変素朴なものの言い方になりますが、軽く終わっていかれる方に関しては非常に症状、所見が体表レベルで終わっているなと。例えば、鼻水がちょっと増えるですとか、のどが痛いですとか。悪くなる方はそれから先に進んでいって主要臓器の障害、例えば肺から始まることが多いわけですが、に行き着いているような気がしますし、そこまで行き着いてしまうと悪くなる方は特段に悪くなる。
山中先生:最近、論文が一つだけ出ていたんですが、それによると因果関係はわからないんですが、症状として味覚嗅覚異常がある方は重症化する率が少ないと。
大曲先生:確かに、味覚嗅覚の障害で、ご自身の異常に気付かれる方で重症になったという方はほとんど、というか全く記憶がないです。むしろ、味覚嗅覚の問題で出る方は全体として症状が軽いですね。
山中先生:その論文の考察としましては、やはり味覚嗅覚症状から出る人は、最初のウイルスの侵入が上気道や鼻から入るので、そこで自然免疫なりがウイルスと闘うようになって、下の下気道・肺に行くころにはもう闘う準備ができているというような考察もしていましたが、宮坂先生、その辺どうでしょうか?ありえますでしょうか?
宮坂先生:可能性としてはあると思いますね。これは、すべてのウイルスがそうですけれど、ウイルスに対する私たちの体の免疫というのは、自然免疫と獲得免疫の二段構えで、最初の自然免疫というのは生まれつき我々が持っている体の仕組みで、例えばウイルスが入ってきたら食細胞が行って食べて殺してしまう。殺菌物質を殺してしまう。獲得免疫のほうは我々の細胞の中の「リンパ球」というものが働いて、Bリンパ球が働けば抗体、Tリンパ球が働けばキラーT細胞を作って感染細胞を殺してくれるということになります。もし、自然免疫がしっかりしていれば獲得免疫のお世話にならずにウイルスを撃退できてしまう人もいる。そういう場合ですと、ウイルスが入ってきても第一段階のところ、城門で敵を撃退してしまって本丸には入れなかった。
山中先生:今のお話で、自然免疫で抑え込みに成功して本丸の獲得免疫まで行かないと。これは患者さんにとっては良かったなという気はするんですが、一方で心配なのは新型コロナウイルスに対する獲得免疫ができなくて、再感染の恐れが残るんじゃないかと思ってしまうんですが、その辺はどうでしょうか?
宮坂先生:それは一定量以上のウイルスが入ってくると感染する可能性はあると思いますが、自然免疫がしっかりしている人はおそらく1000個や数千個のウイルスが入ってきても自然免疫だけで撃退してしまう。ですからちゃんと対人距離を保つ、例えばマスクをするというようなことをしているとかかりにくい人はかからないのではないかと。
よく言われるのは「このウイルスには私たちは免疫がないので、ウイルスが来ると人口の6割とか7割が感染してしまう」という話が出てくるんですけれど、私はそれは間違いだと思っています。例えば、ダイヤモンド・プリンセスでも、なった人は2割。ウイルスがいっぱい飛び交っているような所でも10人中8人はならない。なぜかというと全くウイルスにさらされなかったのかというとそうではなくて、たぶん自然免疫だけで撃退した人もいるでしょうし、今後、抗体検査の結果が分かってくると、実際に何割が本当に獲得免疫まで動かして撃退したかということが分かってくると思いますが、大事なことは8割近い人はウイルスがいてもそう簡単には感染しないという事実がある。それが私たちの免疫の仕組みによるものであろう、撃退しているんだろうと考えています。
山中先生:そうなりますと、例えばニューヨーク州とかで大規模な抗体検査を行って抗体パスポートではないですが、抗体を持ってたら職場復帰してもいいという考えも一部にはあるようです。ただ、宮坂先生のお話をお伺いしていると、自然免疫だけでやっつけることができる人は抗体で判断すると誤ってしまう可能性も考慮に入れておかなければならない、という可能性もありますでしょうか?
宮坂先生:そういう言い方もできるとは思います。ただ、自然免疫が強い方は抗原(ウイルスなど)が一定以上入ってくると獲得免疫も動きやすくなる。なぜかというと、獲得免疫というのは自然免疫がうまく動いて初めて獲得免疫が動くので、自然免疫が強い方は獲得免疫も起こりやすい。自然免疫だけでウイルスを排除してしまった人が後でかかりやすくなるんではないかというのは、概念としてはありえますけれど、実際は免疫学的にはむしろ自然免疫がしっかりしている人は獲得免疫も通常はしっかりしているので、かかりにくい人はやはりかかりにくいのではないかという気はしています。
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