top of page

BS1スペシャル「山中伸弥が聞く 新型コロナ 〜3人の科学者+1人の医師との対話〜」③

更新日:2020年6月26日

3回目の注目点は

① 新型コロナウイルスは恐らく自然発生したもの

② 通常は変異を人工的に入れると増殖性は落ちる

③ すでに存在しているウイルスはその環境がベスト

④ 新型コロナウイルスはヒトに適応して伝播している

⑤ ワクチン供給には時間がかかる


つまり、ウイルスは置かれた環境に適応するように変異を繰り返していて、今回は非常にヒトに適応力を持った変異をしているということです。



出演(後半)

山中伸弥 京都大学iPS細胞研究所 所長・教授

河岡義裕  東京大学医科学研究所教授

     インフルエンザウイルスを人工的に作り出すことに世界で初めて成功。

     ワクチン開発にも取り組む。

朝長啓造  京都大学 ウイルス・再生医科学研究所教授

     ウイルスの進化を長年にわたって研究。人類のウイルス感染の歴史にも詳しい。



ナレーション:効果的な治療の模索が続く新型コロナウイルス感染症。このウイルスは一体どんなものなのか。山中さんはそもそものところを知りたいと、今度は第一線のウイルス学者と向かい合います。


山中先生:新型コロナウイルスがどうやって生まれたかといういうことをお伺いしたいんですが、トランプ大統領とかは人工的にできたものじゃないかという議論をされているんですが、この由来についてお二人の先生方はどういうお考えをお持ちでしょうか?

朝長先生:このウイルスに関しては自然発生したものと考えています。恐らく人工的に作るとしても既知のウイルスをベースとすると思うんです。それにしては、あまりにも今まで私たちが知っている既知のウイルスからはランダムに変異が入り過ぎているという点があります。要は、人工的に作ったしにしては上手過ぎる。こんなに上手に出来るんだったら恐らく自然でしかないんじゃないのかなと。

山中先生:ただ非常にうがった見方をすれば、そういうことを見越して「ランダム・ミュータジェネシス」といいますか、今までの知見を全然無視していろんな変異をランダムに入れて選び出すということも理論的には可能じゃないかと思うんですけれど。私、全くウイルスのゲノムを触ったことがないので、そんなことが言えるのかもしれませんが。

河岡先生:我々、インフルエンザウイルスでランダムに変異を入れたりとか特定の変異を入れたりとかして実験をするんですけれど、多くの場合は変異を入れるとウイルスの増殖性は落ちます。それはなぜかというと、すでに存在しているウイルスはその環境でベストなんです。それに変異を入れると他のところに変異が入らないとうまくフォールディングしないとか、うまく機能しないという問題が出てきます。今回の場合は、さらにヒトからヒトへ伝播する。すべてを人工的に作ったウイルスで達成するのはほぼ不可能に近いと思います。

朝長先生:コロナウイルスに関してはあまりよく分かっていないところが多いんです。どこの変異を入れれば伝播性が良くなる、感染性が強くなる。そのような段階で恐らく人工的なウイルスっていうのは作るのは非常に難しいというふうに考えます。

山中先生:分かりました。自然がなんとも難儀なウイルスを作ってくれた、長い歴史の中ではこういうことも起こりうるのかというふうに思います。それで、この新型コロナウイルスの怖さっていうのはどういう点だと思われますでしょうか?

河岡先生:今回の新型コロナウイルスの怖さは、ほとんどの人が軽症であることと、ウイルスが非常に伝播しやすい。ですけれど、一定の割合で死亡者、重症患者が出る。そこがこのウイルスのコントロールのしづらいところだと思います。

山中先生:多くの人には無症状であったり軽症であって、ある意味油断させておいて、でもある割合、一部の人に重篤な肺炎等を起こして、今、報告されている割合では数%の方を死亡させてしまうと。こういう、なんとも大変なウイルスなんですが。

朝長先生:この新型コロナウイルスは急速に世界に広まったわけですけれども、確かに私たちがこのウイルスに対する免疫を持っていなかったのもそうなんですが、それにしても本当によく広がっている。同じように免疫を持っていなかったようなSARS-CoV-1のほうは、感染者が大体8000人くらい、MERSの方はこれまでに2500人。それに比べても「CoV-2」は非常によく増えているということができます。すなわち、非常にこのウイルスはヒトにアダプテーション(適応)して非常によく入ってきている。人馴れして人間社会に出てきた、そういう印象を受けます。

山中先生:なるほど。

ナレーション:世界に広がった新型コロナウイルス。僅か5ヶ月ほどの間に5000種類以上にも枝分かれしていったことが明らかになっています。この変異のスピードに山中さんは関心を示します。

山中先生:もうひとつ、このウイルスの特徴といいますか、ウイルスの変異の速度についてお伺いしたいんですが。

河岡先生:それはインフルエンザウイルスが新しく出てきたときに配列を、皆さんがシークエンスされた配列がどんどんデータベースにアップされているんですけれど、それを見ると結構すぐ変異が入っていくのが手に取るように見えるんです。ところがこのウイルスの場合、あんまり変異が入っていないんです。インフルエンザをやっている研究者からすると安定のウイルスだとは感じるわけです。その理由の一つは、このコロナウイルスの場合には間違いを修復する酵素がありますので、そのせいである程度変異が入るのを防いでいるというところはあります。とはいうものの、今回のウイルスは新しいウイルスなのでヒトに入ってヒトで爆発的に流行というふうになると、結局、増殖する回数が加算されますので、ウイルスの一回の増殖における変異の割合っていうのは少なくても、回数を重ねるほど変異は入るので、今、世界中のウイルスを見ているとそれなりに変異は入っています。

山中先生:そこからですね…変異が入ることによって感染力、症状が重くなっているんじゃないかという考察もあるんですけれど。

朝長先生:変異が起きて感染率、死者の数、伝播の仕方がどう変わっていくか、非常に興味深い問題なんですけれど、本当にウイルスのゲノムのレベル、遺伝子の情報からだけでは何も言えない。そこは注意していかなきゃいけないところで、今後、実験によってそういう変異が本当に感染力が強いのか、もしくは病原性が強いのかということは確かめていかなければいけないと思います。中国からこのウイルスが出て世界中に広がっていくわけです。例えば、人類もそうですけれど、アフリカから人類が出ていろんな所へ行って白人の人になりとか黄色人種になりとか、アフリカにとどまった人は黒人、結局そういうことと基本的には同じなんですね。

河岡先生:いろんな型と呼ばれるものが出てくるんですけれど、朝長先生が言われたように、そこで入ってきた変異と伝播力、あるいは病原性というものは塩基配列やアミノ酸を見ただけではわからない。実際にそのウイルスを同じ条件で、当然動物実験になるんですが、比較してみないと、いろいろなことは分からないということになります。

ナレーション:各地で変異を遂げる新型コロナウイルスが、今後どんな姿を見せるのか。まだ誰も見通すことはできないようです。分からないことだらけのウイルスと闘うために、重要性を指摘され続けている「検査」について山中さんは質問します。

山中先生:このウイルスを検出する最も信頼できる検査はPCR検査ですけれど、インフルエンザの場合は、もっと簡単にといいますか、いろんなクリニックに行くと抗原検査っていうんですか、10分くらいで結果が出る検査が行われているわけですが、なぜ日本でPCR検査が今のところあまり行えていないのかということを不思議に思っている人も多いんですけれど、それについてどう思われますでしょうか?

河岡先生:例えば韓国で凄い量のPCR検査が行われているわけですけれど、韓国はSARS、MERSを経験してPCR診断の施設が充実しています。日本は(インフルエンザの)迅速診断キットが充実しています。世界中でインフルエンザとか、要するに呼吸器症状が出た時に、お医者さんに行って、そこで迅速診断キットで診断されて薬が出てくるというシステムは世界中で日本だけです。

山中先生:なるほど。インフルエンザで迅速診断が普及したこともPCR検査が普及しなかった理由だということですね。今まで私たちはどっちかっていうとその恩恵にあずかっていたと思うんですけれど、今回に関してはちょっと裏目に出てしまっていると。

河岡先生:現在はその差が出ている状況です。

山中先生:ただ、日本でも新型コロナウイルスに対しても迅速診断の開発が進んでいまして、だいぶ状況も変わってくるんじゃないかなと。(5月13日 日本でも承認)

ナレーション:そしてウイルスとの闘いの決め手となるかもしれない「ワクチン」。ワクチン開発の最前線にいる河岡さんに期待を込めて問います。

山中先生:今、世界中でワクチンの開発が進んでいます。今の状況を打破する一つの切り札と思われますが、治験に入っているワクチンはどういう種類がありますでしょうか?

河岡先生:生ワクチンは入っていないと思うんですけれど、いろんな種類のワクチンが使われていると思います。メッセンジャーRNAワクチン、DNAワクチン、不活化ワクチン、サブユニットワクチン、考えられるいろんなワクチンが今、臨床研究に入りつつあると思います。

山中先生:ワクチンはもう本当に期待していますが、これもワクチンの種類によると思いますが、パンデミック(世界的大流行)で何億人用という単位で必要になってくる。その場合、安全性、有効性が確認されてから数千万人、数億人という人を対象にする十分量を生産するまでどれくらいの時間が予想されますでしょうか?

河岡先生:わかりやすい例がインフルエンザのワクチンで、製造方法もわかっていて、非常にウイルスもよく増えて、もう確立しているワクチンなんですけれども、それでも年によってはワクチン量が足らないというニュースが流れたりするぐらいに、まあ、そういうことなんですね。もうすでに作り方がわかっているワクチンでも時間がかかり十分量を供給できないことがある。今回の場合には世界中の人たちに接種する量ですから、当然この冬には間に合わない。いろんな条件がうまくいって、ラッキーであればひょっとすると来年の冬に間に合うかもしれない、それもちょっとどうかなという気がします。

山中先生:わかりました。まあ期待はしつつ、過度な期待はやはり良くないと思いますので、今のご説明は非常に重要なことだと思います。


Comments


ⒸCopyright, aroga-tobira.com, all rights reserved.

当サイト掲載の記事・写真・イラストなどの無断転写・転載等を禁じます

bottom of page